亡くなった人の情報は「個人情報」か
現在生きている人の個人情報を法的に保護すべきことは、明確に法令の定めができたこと等から疑問には思わないでしょう。
では、亡くなった人の個人情報はどうでしょうか。
当然ながら、亡くなっていますから、その人が開示、訂正又は利用停止の請求をすることができないわけでして、保護の対象がいないようにも思われます。
他方で、亡くなった瞬間に法的保護の対象ではないというのは極端ですし、多くは相続によって権利義務関係が承継されているのに個人情報の保護は一切承継されないというのは不都合が生じます。
このような議論もあり、死者の個人情報の取扱いをどうすべきかについて統一的な見解はなく、また、個人情報保護法でも規定されていませんでした(同法では「生存する個人」の情報のみ対象とされています。)。
そのため、各地方自治体は個人情報保護条例において、それぞれ異なる定めをしていました。
個人情報保護委員会が令和2年に行った調査によれば、半数以上の都道府県及び市町村において、死者に関する情報が個人情報保護条例の対象とされていたようです。
令和3年の法改正後の取扱い
令和3年の法改正(同年法律第37号)によって、個人情報保護に関する法令は個人情報保護法に統一化されたことにより、保護の対象となるのは「生存する個人」の情報に統一されました。
それ以前のように、各地方自治体が、死者に関する情報を保護の対象にすることは、直接的にはできなくなったのです。
そうすると、令和3年の法改正によって、死者に関する情報は、一切保護されないことになったのでしょうか。
そうではなく、個別の事情によっては、死者に関する情報が「生存する個人」の情報にも該当することはあり得まして、その場合は保護の対象になります。
ですので、法改正の前後を問わず、死者に関する情報は保護の対象となる可能性がある情報と言えます。
保護の対象となりうるのは
では、死者に関する情報が、同時に生存する個人の情報に当たるのは、どのようなケースが考えられるでしょうか。
最も分かりやすい例は、死者に関する情報の中に、現在生きている人の氏名や住所等が載っている場合です。
市民病院の医療記録内に、キーパーソンとして親族の氏名や連絡先が載っている場合等ですね。
それ以外にも、遺族が死者の財産を相続している場合、当該相続財産に関する情報は、相続人の個人情報に該当することが多いと思われます。
例えば、税務調査における、調査対象となる被相続人の財産等(未分割の遺産)に関する情報は、相続人全員の共有財産として各相続人の個人情報に該当すると考えられます。
(法改正前の答申。なお、あくまでも「相続財産」に関する情報であり、国税調査官の動きに関する情報は対象外でしょう。)
同様に、未成年者である子が事故で死亡した場合、相続した慰謝料請求権の行使のため(又は近親者固有の慰謝料請求権の行使のため)に必要な情報として、生存する親の個人情報ということができそうです。
(社会通念上、子と密接な関係がある親であれば、親自身の個人情報とすることが可能、という考え方もあります。)
死者に関する情報を個人情報保護の対象にしていた地方自治体における条例の定め方は様々でしたが、上記のように、相続財産に関する情報である場合や、死者と一定の関係がある親族である場合に、開示等を認めうると定めていたものが多いと思われます。
各地方自治体の条例の定め方は統一されていませんでしたので、法改正前とは異なる取扱いをする場面が多々あるかと思われますが、私見としては、本質的な考え方は変わっていないと解されます。
大切なことは、令和3年の法改正の後は、死者に関する情報が、法による保護の対象外だと誤認しないことです。
死者に関する情報の開示請求等においては、その情報の内容によっては、又は死者と請求者との関係性によっては、開示等をしなくてはならない場合がありうるのです。
令和3年の法改正にあたり、各地方自治体においては、条例・規則・要綱・マニュアル等の改訂を済ませていることでしょう。
ですが、法改正からしばらくの間は、先例の積み重ねが十分ではなく、改訂した条例等が完全であるとは言い切れません。
「生存する個人」の情報であるかどうかを、本質的かつ個別的に検討する必要があるのです。
死者の情報と言えども「生存する個人の情報に当たるか」を検討する必要がある。どのような者が、どのような情報の開示等を求めているのか等から結論を出すこと。
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