個人情報保護に関する法令が整備されてからしばらく経っており、個人情報の開示等請求が可能であることは住民にも浸透してきました。
行政側としても、自他を問わず多くの先例が積み重ねられたことにより、どのように対応すればよいのかが分かってきています。
そんな今でも行政として悩ましいのは、亡くなった人の情報開示請求があった場合ではないでしょうか。
条例に明確に定められている場合は別として、現場では「この請求者に開示することが妥当なのか」と頭を悩ませる場面があります。
規程、運用指針等に考え方が示されていても、それだけで安心とは言えないでしょう。
今回ご紹介するのは、死因等に関して警察が調査した記録について、遺族が条例に基づく開示請求をすることが認められるのかが争われた、鳥取地方裁判所・令和3年2月12日判決です。
事案の概要
「Y県個人情報保護条例」には次の規定がある。
12条1項 何人も、実施機関に対して、当該実施機関の個人情報取扱事務に係る自己の個人情報について開示の請求をすることができる。
また、上記条例の趣旨、解釈及び運用において、「個人に関する情報」及び「自己の個人情報」の定義は次のように記載されていた。
「個人に関する情報」とは、思想、心身の状況、学歴、職歴、成績、親族関係、財産状況、所得その他一切の個人情報をいう。(略)
また、死者の情報は、個人情報に含まれる。その理由は、死者の情報であっても、適正に管理する必要があることと、実務上、すべての個人情報について、生存する者の情報であるかどうか確認することが困難なためである。
「自己の個人情報」とは、開示請求をした本人の個人情報であることをいう。
なお、自己以外の者の情報と自己の情報とが合わさって自己の個人情報を形成していると認められる場合等は、当該自己以外の者の情報を含めて、自己の個人情報となる。
具体的には次の場合が考えられる。
ア 請求者が死者である被相続人から相続した財産に関する情報
イ 請求者が死者である被相続人から相続した不法行為による損害賠償請求権等に関する情報
ウ 近親者固有の慰謝料請求権など、死者の死に起因して、相続以外の原因により請求者が取得した権利義務に関する情報
エ 死亡した時点において未成年者であった自分の子に関する情報
平成3年、Xは父Cと母Dの子として生まれる。
平成15年、CとDは調停離婚。Xの親権者は母Dとなる。これ以降、XとCは同居せず、高校2年生の頃からは一切交流がなくなった。
平成30年2月、Cは居宅で動けなくなっているところをCの妹Fに発見され、病院に緊急搬送され、高度脱水、低栄養であると診断されて入院。
診療録には、Fと夫が、Cは「お金がなく病院にいけていなかった」と話した旨、Fは「援助する気がなさそう」であった旨などが記載されている。
同年3月、Cが死亡した。Y県警察は、亡Cの死体について、死因・身元調査法に基づく調査、検査等を行い、その結果を記録した死体調査等記録書(以下「本件記録書」という。)を作成した。
遺体は亡Cの実妹であるFに引き渡された。
令和元年6月、XはY県警察本部長に対し、条例に基づき、
「私の父、Cが死亡した際、警察が調査した内容が記載された書面」
の開示を請求した(以下、「本件開示請求」という。)
同年7月、Y県警察本部長は、本件開示請求について、非開示決定をし、その旨通知した。
裁判所の判断
亡Cの情報が、Xの「自己の個人情報」に該当するかどうか。
個人の尊厳と基本的人権の尊重が社会の基礎であるとの見地から個人情報の保護が重要であることに鑑み、自己の個人情報の開示等を求める権利を明らかにすること等により個人の権利利益の保護を図るという本件条例の趣旨目的に照らせば…
⇒死者に関する情報であっても、それが生存する開示請求者の「自己の個人情報」に当たるということができる場合には、本件条例による開示請求の対象となり得ると解するのが相当である。
死者に関する情報が、生存する開示請求者の「自己の個人情報」に当たるといえるかについては、本件条例の趣旨目的に照らし、当該情報の内容と当該個人との関係を個別に検討して判断するほかない。
本件でXが開示を求めている文書は、死因・身元調査法に基づく調査、検査の結果を記録した記録書である。
①死因・身元調査法1条が遺族等の不安の緩和又は解消及び公衆衛生の向上に資し、もって市民生活の安全と平穏を確保することを目的とする旨等を定めていること。
②同法に関する附帯決議として、遺族等の不安の緩和又は解消に資するよう、警察は、死体を引き渡した遺族等に対し死因その他参考となるべき事項の説明を行うこと等が決議されていること、
③死者自身は、既に死亡しており、同法に基づく調査、検査の結果を知ることがおよそあり得ないことに照らせば、同法に基づく調査、検査は、遺族等の不安の緩和、解消を目的として行われている側面があり、かつ、その調査、検査の結果は、遺族等に適切に説明されることが求められているということができる。
⇒死因・身元調査法に基づく調査、検査の結果に関する情報は、当該遺族が当該死者の死亡について不安を抱くとは考え難い事情が存在することが客観的に明らかであるなどの特段の事情がない限りは、死者の遺族の個人情報になると解すべきである。
解説
個人情報保護法においては、個人情報とは「生存する個人に関する情報」と定義されています。
そのため、死者の(個人)情報は、法による保護の対象ではないのです(条例で別の定めを設けている場合は別として。)。
ここで、よく「民法896条には、『一切の権利義務を承継』と規定されているのだから、個人情報に関する権利義務も相続人に承継されて、相続人の地位で開示等の請求ができるのではないか?」というご質問を受けます。
民法896条は、「被相続人の財産に属した」一切の権利義務の承継を規定するものでして、個人情報の開示等を請求する権利は、財産に属したものとはいえないでしょう。
法令が個人情報を保護しているのは、個人情報から特定される「その個人」の、自己情報コントロール権といった権利利益を守る趣旨でして、相続人が必ずしも当てはまるものではありません。
(例えば、人によっては、自分が亡くなった後に、相続人に自己の個人情報を開示等してほしくないと望むこともありうるのです。)
結論としては、相続人であったとしても、死者の個人情報に関する権利を承継するものではありませんので、相続人だからといって、必ず死者の情報の開示等を請求できるわけではないのです。
他方で、個人情報には多様な側面があり、行政の保有する文書の中に、死者に関する情報だけでなく生存している者の氏名、住所等が記載されていることもありますから、その内容によっては、生存する者の個人情報でもある、という可能性があります。
そのため、死者の情報の開示請求等があった場合は、請求している者、すなわち「生存する個人の情報」に該当するかどうかで結論が変わるのです。
この問題に関しては、大きく分けて二つの考え方があるとされます。
①死者に関する個人情報であることの特殊性から、それ以外の場合とは異なる特別な基準を用いるべきという考え方(便宜上、「特別基準説」と呼ぶ)。
例えば、亡くなった未成年者の親が子の情報開示等を請求する場合、「家族共同体構成員の固有情報と同視できる場合がある」「密接な関係を有することから、父又は母自身の個人情報と同視しうる余地がある」とする考えです。
亡くなった者と、開示請求等をしている者との関係性に着目する考え方と言い換えられます。
②開示請求等の対象となっている当該情報の内容と権利行使をしている当該個人との関係を個別に検討して判断すべきという考え方(便宜上、「個別判断説」と呼ぶ)。
個人情報保護の法令は、個人の権利利益の保護を図るために個人情報の開示等の請求権を与えているのですから、当該請求者と情報との関係性が重要であるという考えです。
行政機関の保有する個人情報に関する事案ではありませんが、金融機関が保有する死者の情報に関しては、最高裁判所平成31年3月18日判決がありまして、そこでは個別判断説が採用されています。
この判例以前は、特別基準説を採用したかのような裁判例が存在していましたが、判例以降の裁判例では基本的に個別判断説が採用されていまして、本事案も同様です。
特殊な条例の定めがない限り、個別判断説がスタンダードな考え方になっていると思われます。
開示等請求を受けた行政側としては、基本的には条例の定めるとおりに判断していただくのですが、まずは個別判断説を軸として、「当該情報と請求者との関係」に着目されるのがよいでしょう。
亡くなった人の情報が、請求者(生存する者)の個人情報に該当する場合もある。
請求者と、開示等請求の対象になっている情報との関係性に着目すべし。
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