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業務指示に背いて出社しない従業員を懲戒解雇できるか

従業員が独自の理論を展開して、企業の指示に従わない…
そんな時、上長や管理職としては、とても頭が痛いですよね(もちろん、企業の指示が合理的であることが前提です。)。

細かな作業指示に従わないだけならまだしも、指示した業務そのものを行わなかったり、認められていないのに出勤せず、業務の報告がなかったり、雇用契約の本質的な部分を行っていない場合はより深刻です。

今回ご紹介するのは、企業の承認なく不出社・外出を繰り返し、企業からの度重なる注意・指導(その後の懲戒処分)を受けても反省することなく改善を見せなかった従業員に対する諭旨退職処分の有効性が争われた、東京地方裁判所・平成21年11月27日判決です。

目次

事案の概要

Y社は、電気事業を主として営む株式会社。
Xは昭和59年4月にY社に採用された。

Y社の就業規則には次の定めがある。
56条第2項「社員は、自己の担当業務に関して出張の必要を認めたときは、用件、日程等を事業所の長に申し出て、その指示を受けなければならない」

247条「懲戒は次の6種類とする(1)けん責 本人より始末書を取り、将来を戒める (中略) (5)諭旨解職 退職願の提出を勧告する。ただし応じないときは懲戒解職する なお、退職金の一部を支給しないことがある。」

248条2項(2)「正当な理由なく、もしくは無断による欠勤が所定労働日30日間を通じて14日以上に及んだとき」
同(3)「正当な理由なく業務上遵守すべき法令に違反し、または会社の諸規定、もしくは指示・命令に従わなかった場合であって、会社に重大な不利益を与え、または情状の特に重いとき」
同(12)「過去に懲戒処分を受けたにもかかわらず繰り返し、改悛の見込みがないと認められたとき」

平成20年4月1日、Xは、Y社技術開発本部技術開発研究所(以下「本件研究所」という。)に異動となった。
同所におけるXの担当業務は経済動向調査(以下「本件業務」という。)であった。
Xは管理職であったが、本件研究所にはXが管理・指導・育成・評価するべき部下はおらず、Xとチームワークを行う者もいなかった。
一方、Xの本件研究所内の配属先は所付と呼ばれ、本件研究所内のいずれのグループにも属さず、研究所長直属の配属先であり、Xの直属の上司は研究所長であった。

Xは、平成20年4月1日の着任日の翌日から、本件研究所に出所しなかった。
Xは「出張」していたと説明している。

平成20年4月10日に本件研究所に出所するようにとのメールを受信したため、Xは本件研究所に出所した。
4月10日、上司2名(C所長代理、Bマネージャー)は、本件研究所に出社したXと面談を行い、仮に業務の必要があって社外で仕事をするのであれば、出張の申請に当たり、その要否判断に必要な情報を提示して上司の承認を受けなければならないこと、また、出張の趣旨や成果を適宜上司に報告することの2点の遵守を求めた。
また、Xは、イントラネット上の「外出」といった入力について、翌日には消去するという行動を繰り返しており、出張旅費請求との突合に使用することができないなどXの勤務態様の把握が困難な状態が生じていたので、過去のスケジューラーを消去してはならない旨口頭で指示した。
Xは、その後も用件や訪問先をY社(自分の上司)に対して知らせることなく不出社を継続した。

5月19日、C所長代理は、Xの服務管理ができない状況に鑑み、Xに対し、出張する場合は事前に行き先と目的を明らかにして上司の許可を取ること、出張報告を上司にしないと就業規則違反なので懲罰の対象となること、行き先を明らかにしない外出は欠勤と同じで、これが度重なるのであれば懲戒となることを伝え、服務態度の改善を求めた。
これに対し、Xは、情報源の秘匿性があること、ただちに会社に報告する緊急性がないこと等を理由に、出張の事前申請や事後報告はできないと答え、また、出張によらずに外出をしていたXには出張に関する指示は無関係な指示であるとの認識を有していた。

Xは、上記の上司との面会において上司から口頭で注意を受けた後も、職場に出社しないまま6月を迎えた。
Y社上司は、前回(5月19日)の口頭での指示によりXの勤務態様に変更がなかったことから、Xに対し、6月27日には必ず本件研究所に出社するよう電子メールを送信した。
そして、Y社上司は、同日、上記メールに従い出社してきたXに対し、本件研究所の所長から、出張の必要がある時は訪問先等を報告して指示を受けること、出張から帰ったときは経過及び結果を報告すること等を記した業務指示書を手交し、注意を行った。

Xは、Y社による平成20年6月27日付け文書による業務指示を受けた以降、終日の外出を中止して、午前中には毎日本件研究所に出所し、その後本件研究所を退館するという勤務を行うようになった。
さらに、Xは、かかる在社の状況につき、平成20年6月30日、7月1日、同月2日にかけて上司に発信したメールの中で「業務指示は、会社の諸規程上の根拠がないから、従わなくても問題ない。」等と述べた。

平成20年7月24日、Y社は、Xが業務命令に対して明示的に不服従の姿勢を表明するに至ったことから、これを看過し得ないと考え、所長からXに対し、電子メールをもって要旨以下のとおり通告した。
・労務指揮権、業務命令権は使用者の基本的権限であるので、これに基づく業務指示は適法かつ妥当である。
・Xは本件研究所の自席で業務を行ったことがほとんどなく、出張の申し出もないのであるから、勤務実態はほとんどない。
・終日の外出は労務の提供がなされていないので欠勤となる。また、終日に及ばない場合でも頻繁に行えば誠実労働義務、職務専念義務違反である。
・ついては、業務指示に従わない場合、懲戒処分の対象となる。

これに対し、平成20年7月25日、Xは反論メールをY社へ送信した。
Xはその後も午前中のごく短時間のみ在社した後、行先不明の状態で外出しそのまま戻らない勤務状態を繰り返した。

Y社は、上記の経過のとおり、平成20年7月、同年8月と、Xの就業姿勢にまったく改善が見られないことから、同年8月29日、所長からXに対し、再度の業務命令とこれに従わない場合は懲戒処分の対象となる旨の業務指示を発した。

Xは、午前中の短時間のみ在社してメール等をチェックし、その後は外出し、そのまま直帰するという勤務状態を継続した。
Y社は、上記のようにXの勤務態度が一向に改まらないことから、Xに対し懲戒処分もやむなしと判断するに至り、平成20年10月1日、所長名でXに対する懲戒(けん責)辞令(以下「本件懲戒」という。)を発令し、同月7日までに始末書を提出するよう指示した。

本件懲戒で示された始末書の提出期限の前日である10月6日、Xは、「始末書を持参した」との用件でD・GMの席まで出向き、同GMに茶色のまちつき封筒を手渡した。
D・GMは、Xが退出した後(午前8時25分頃)、当該白封筒を開封したところ、中に茶色い隠し紙が2枚入っていただけで、始末書を発見することができなかった。
その後の同月8日、D・GMは、本件研究所長からの指示・連絡事項として、始末書を再提出するよう求めたが、Xは応じなかった。
また、本件懲戒後においてもXの勤務状況に変化はなく、本件懲戒の理由とされた長時間の不在を継続した。

その後も、Y社はXに対し、注意・指導を行ったが、Xは従わなかった。
Y社は、XがY社による再三の業務指示を合理的な理由なく拒否した上、本件懲戒にも従わないなど、反省の情がまったく見られず、今後指導を重ねてもその改善可能性は認めがたいとの結論に達し、平成20年11月12日付で本件諭旨解職処分を発令した。

裁判所の判断

Xに対する諭旨退職(懲戒解雇)の有効性

・本件研究所に配属されて以降、Xは、業務上の必要性の認められない不出社を全出勤日数の3分の1にわたって敢行した。
・Y社から度重なる注意・指導及び本件懲戒を受けたにも関わらず、その後も業務上の必要性が認められない半日ないしそれ以上の外出行為を行ってきた。

⇒上記Xの一連の行為は、Y社就業規則第248条2項(3)「正当な理由なく業務上遵守すべき法令に違反し、または会社の諸規定、もしくは指示・命令に従わなかった場合であって、会社に重大な不利益を与え、または情状の特に重いとき」のほか、同条同項(12)「過去に懲戒処分を受けたにもかかわらず繰り返し、改悛の見込みがないと認められたとき」に該当するものと認められる。

上記認定の本件諭旨解職処分の対象となった事由の態様、継続性、これに関するY社の注意・指導及び本件懲戒に対するXの対応にかんがみれば、本件諭旨解職処分には社会的相当性が認められ、本件諭旨解職処分には何らの瑕疵も認められない。
本件諭旨解職処分は有効

解説

本件は、懲戒解雇(諭旨退職)の有効性が認められた事案でして、参考になるポイントをいくつかご紹介していきます。

①業務指示に従わないことの正当な理由がうかがわれない

本事案では、Xは出社しない、又は出社してすぐに外出することを繰り返していました。

Y社はこれを容認せず、外出するならイントラネットに外出する旨、外出先を入力することや、事前事後に報告をすること等をXに指示していました。
従業員を管理しなくてはならないY社としては、当然の指示といえるでしょう。
これに対して、Xは、Y社の業務指示に理由がないと反抗したり、外出先で取材等をしていて、取材先の秘密を秘匿する必要があるといった反論をしたりしていました(事案の概要では省いています。)。
このように、Y社の合理的な業務指示に対して、Xは正当な理由なく、これを拒んでいたのです。

本事案とは異なり、企業が出社を命じていても、従業員が何らかの病気にり患しているためにこれを拒んでいる場合は、従わないことに正当な理由がある可能性がありますので、注意が必要です。

②明確な注意・指導をしている

Xの問題行動に対して、Y社は、メール、書面等の方法で業務指示、注意・指導を行っています。
口頭で指示等を行いますと、従業員からすると内容が明確ではなく、意図が正確に伝わらないことが少なくありません。
文章で示すということは、従業員にとっても指示等の内容が明確になりますので、より実効性が高まることになります。

また、後々に紛争に発展した場合に、証拠として明確でして、企業がどのような対処をしてきたのかを正確に示すことができます。
口頭の場合ですと、従業員に正確に伝わりづらいことも相まって、「言った・言わない」の水掛け論になってしまいがちです。

他の業務との兼ね合いもありますので、全てを記録に残すことは難しいという実情はありますが、企業から従業員に何かを伝える時は、メール、書面等の記録が残る方法にすることをお勧めします。

③順を追って対処している

本事案を概略化しますと、
Xが上長への報告なく出社しない⇒上長が面談で事情を聞き、改善指導⇒Xが従わない⇒上長が改善指導⇒Xが半日出社をするようになる⇒メールで業務指示等⇒やはりXが従わない⇒けん責処分⇒Xに改善なし⇒諭旨退職
といった経過を辿っています。

まず、Y社はXが出社しなくなって数日後に、Xと面談を行っています。
従業員の問題行動を放置してしまいますと、企業が容認しているかのような外観になってしまいますので、企業として許していないという態度を示す必要があります。
それと、いきなり懲戒処分に進むのではなく、従業員の言い分を聞くことが適切でして、その意味でも、Y社が面談でXの言い分に耳を傾けている点は評価されます。

次に、Xに対して、業務指示、注意・指導を繰り返しています。
問題行動のある従業員に対して、企業がすべきことは、注意・指導といった、従業員の問題行動を改めるよう促すことです。
その企業の考え方、業態等によって、いかなる行動が良くて、いかなる行動が悪いのか、というのは異なります。
行動の良し悪しについて従業員にちゃんと説明し、どのように行動を改善すればいいのかを理解してもらうよう努めています。

続いて、Xが注意・指導に従わず、反抗的な態度を示していることに対して、Y社はけん責処分としています。
懲戒処分は組織の秩序を維持するために雇用主に与えられた権能でして、Y社からの合理的な指示にXが従わない以上、懲戒処分はやむなしと言えます。
通常、懲戒処分は複数あり、その中に軽重があるのですが、Y社の就業規則の定めを見ると、けん責処分が最も軽度の処分のようです。
Xの改善を促すために、けん責処分としたことは相当と考えられます。

最終的に、けん責処分を受けてもXは反省の色を見せず、改善をする様子がありませんでしたので、Y社は諭旨退職としています(就業規則では「諭旨解職」とされていますが、一般的には諭旨退職のことです。)。
けん責から諭旨退職までの期間が短いこと(改善が期待できるかを確認する期間としては短い印象)、けん責の次に懲戒解雇とほぼ同等の重さの諭旨退職に踏み切ったことは、是非の意見が分かれそうな点です。
しかし、Xがそれまでに何度も業務指示違反を繰り返してきたこと、Y社が何度も注意・指導をしてきたこと、それでもXは反省することなく改善を見せなかったことからすれば、Y社の対応が不合理とはいえないでしょう。
特に、Xの業務指示違反は、出社しない、無断で外出する、という態様でして、雇用契約の根幹である労務提供そのものを疎かにしているわけですから、懲戒処分が重くなることは必然と考えます(私見ですが)。

・業務指示に従わない従業員がいる場合は、従わない合理的な理由があるかを確認する。
・明確に注意指導を行い、改善があるかを観察する。
・改善が見られない場合は、懲戒処分を検討する。その場合でも、懲戒解雇(諭旨退職)はとても重い処分なので慎重にする。

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