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遺留分侵害額請求権は引き継がれるのか

今回は、次のような事案(フィクション)が生じた時に、遺留分侵害額請求権がどのような顛末になるのか、を考えていきます。

父A、母B、共に80代の夫婦がいました。
二人の間には、長男Cと、長女Dがいます。
CもDも、結婚して家を出ましたが、DはABの家の近くに引っ越してきて、高齢になったABのお世話をしていました。
そんなDへの感謝の気持ちから、Aは判断能力がしっかりしている頃に、「全財産をDへ相続させる」という公正証書遺言を作成していました。
そして、AはBに対してこの遺言の存在と内容を伝えていて、Bは納得していました。

高齢のBは認知症が進行しており、1月1日時点で事理弁識能力(物事の意味、自己の行為の結果等を理解する能力)が欠けている状況にありました。
続いて2月1日、Aが急に亡くなります。
直後、Dは、Cに対して、Aが公正証書遺言を作成していたことを打ち明けます。
Aの遺言の内容を知ったCは憤慨し、Dに対して遺留分侵害額請求をするなどしており、CとDの関係は非常に悪化していきます。

同時に、認知症のBの世話をどちらがどのようにするのかを巡って対立が生じ、施設や病院等の手続が停滞してしまうようになりました。
Cは、Bに後見人が就くことが良いと考え、主治医に診断書の作成を依頼し、12月15日に後見開始の審判申立てに至りました。
審判手続においては、Bは後見相当と判断されましたが、CDが紛争状態にあることは家庭裁判所にも伝わりまして、翌年2月15日、親族以外の専門家が後見人に就職するという結果になりました。
しかし、身体も衰えていたBは、(Aが亡くなった翌年の)2月1日から入院し、2月18日に亡くなってしまいました。

Bの葬儀等、死後の手続もあって時間が経ち、落ち着いた頃にCはふと、「そういえば、Aの遺産はDが全て取得するなら、Bにも遺留分侵害額請求権があったのではないか?」と考えるようになりました。
果たして、Bの遺留分侵害額請求権をCが承継し、行使することができるのでしょうか。

目次

相続によって承継されるのか

遺留分侵害額請求権は、最低限の遺産を受け取れるように、相続人の生活を保障する趣旨で設けられた権利です。
この趣旨からすると、ある特定の相続人の生活保障のための権利ですので、その権利が第三者に承継されることがあるのか、という疑問が生じます。
特定の人にだけ認められる権利、帰属上の一身専属性があるのではないか、という点に関しては、他の債権と異なるものではなく、相続によって承継されるものと解されています
つまり、Bさんの遺留分侵害額請求権は、Cさんに、法定相続分割合に従って承継されていると考えられます。

なお、行使するかどうかを本人だけが決められるのか、行使上の一身尊属性はまた別の話です。
遺言に納得している、今後の親族関係を壊したくない等の理由から、遺留分侵害額請求権を有していても、行使しない人は一定数います。
改正前に規定されていた遺留分減殺請求権は、特段の事情がない限りその債権者が代位で行使することはできないとされており(最高裁判所平成13年11月22日判決)、行使上の一身専属性はありました。
遺留分侵害額請求権に変わったとしても、別段に取り扱う理由はないと考えられますので、同様に行使上の一身専属性はあると解されます

消滅時効をどう考えるのか

ところで、遺留分侵害額請求権は、民法1048条に「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間」という期間制限が定められています。
法律関係を早期に安定させるため、請求を受ける者の「請求されるか分からなくて不安だ」という状態からの解放等の理由から、とても短い期間となっています。
そうは言っても、本件のBさんのように、理解力、判断力が衰えてしまい、遺留分侵害額請求権を行使するかどうか、適切に判断できない人についても、わずか1年で時効にかかってしまうというのは、あまりにも酷です

民法158条1項には、法定代理人がいない成年被後見人について時効期間が過ぎてしまった場合でも、成年後見人が就いてから6か月間は時効が完成しないと定められています。

この規定は、Bさんのように、事理を弁識する能力を欠く常況にあるものの、まだ後見開始の審判を受けていない者についても、法定代理人を有しない場合には時効措置を執ることが期待できないから保護する必要性があるとして、類推適用されるという判例があります(最高裁判所平成26年3月14日判決)。

上記判例では、時効完成の6か月前に(精神上の障害により)事理を弁識する能力を欠く常況にある者に法定代理人がいない場合において、少なくとも、時効の期間の満了前の申立てに基づいて後見開始の審判がされたときは、法定代理人の就職から6か月間は、時効は完成しないとされています。

法定代理人が就職した直後に遺留分権利者が亡くなった場合はどうなるか

Bさんの遺留分侵害額請求権の時効は、後見人が就職した2月15日から6か月間は完成しないとして、そのその期間内に権利を行使することなく亡くなった場合、時効の完成をどう考えるべきでしょうか。

一つの考え方は、「Bの権利の時効は完成していない状態で、そのままCに法定相続分割合で承継された」というものです。
もう一つの考え方は、「Cは事理弁識能力を欠いておらず、2月1日、Aの死亡直後に遺言の存在等を知っていたのであるから、いくら他人の権利を承継したとはいえ、1年が経過したら時効が完成している」というものです。

この点を論じた判例は見つかりませんでしたので、結論は定かではありません。
Bさん本人は権利を行使することができず、かといってBさんが亡くなるまではCさんは権利を承継しておらず、その権利を代わりに行使することができないわけですから、時効が完成しているとすると、誰も権利行使ができない結果になってしまいます。
仮に時効の完成を認めるのならば、上記の点について理論的な手当が求められるでしょう。

遺留分侵害額請求権は相続によって承継されると考えられるが、消滅時効期間については別途検討が必要である。

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