本記事を執筆している時点で、本ブログを訪れる方の興味関心として多いのは、亡くなった方の(個人)情報を開示等請求することができるのか、という点です。
私は、事件処理や研究会を通じてこの点に関する知見を(僅かながら)有していましたので、いくつかの記事を執筆してきました。
皆様の興味関心があるトピックスのようですので、この機会に、私が感じたこと、考えたことを述べたいと思います。
本記事は、あくまでも私の見解を述べるものに過ぎず、何らかの解決策を示すものでも、実務に役立つものでもないことを予めご了承いただきますよう、お願い申し上げます。
個人情報の開示等請求の根拠
個人情報保護法や個人情報保護条例が、個人情報の開示、訂正及び利用停止等の請求権を認めているのは、個人情報取扱事業者による個人情報の適正な取扱いを確保するためと考えられます。
そして、開示等の請求権が存在することは、自己情報の正確性、取扱いの適正性を本人が確認するために不可欠の制度とされています。
個人情報保護の法令は、個人情報の利用が著しく拡大していることに鑑み、個人情報の適正な取扱いに関し、個人情報取扱事業者の遵守すべき義務等を定めること等により、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とするものですから、この目的を達成するための制度といえます。
(最高裁判所平成31年3月18日決定においても、このようなことが述べられています。)
このように、個人情報の開示等の請求権が認められる根拠は、「自己情報の正確性、取扱いの適正性を本人が確認するため」であるようにも考えられますが、現実には、その確認のために開示等請求をする方は多くはないと思われます。
統計を取ったわけではありませんが、開示、訂正及び利用停止等の認められた権利のうち、現実に行使されるのは開示請求が多いという印象です。
また、開示請求の目的は、開示された個人情報を何らかの手続等に使用するためであること、が多いという印象です。 (過去の記事で紹介しました、鳥取地方裁判所令和3年2月12日判決の事案もそうでした。)
何かに使用する目的での開示請求を考える
こうして理論的に分析していくと、自己情報の正確性、取扱いの適正性を本人が確認するためではなく、開示された情報を何らかの手続で使用するために開示請求をすることは、法令が想定していなかった目的での権利行使のようにも思われます。
では、開示された情報を何らかの手続で使用するために開示請求をすることは、認められないのでしょうか。
個人情報保護の法令は、個人情報の有用性に配慮しつつ、「個人の権利利益を保護すること」を目的とするものです。
この点に着目すると、ある人の権利利益を実現するため、個人情報の開示請求によって得られた情報が必要であるとか、非常に有用である場合には、その権利利益を保護することも、個人情報保護の法令の目的に沿うものと考えることができそうです。
ややこしい表現にはなりますが、法令は、自己の情報の正確性等を確認するという、いわば情報そのものに対する権利利益だけではなく、その情報を利活用して自己の権利利益を実現していくということも保護している、と捉えてもよいと解されます。
最後に(雑感)
ここまで分析を進めていくと、ある疑問が浮かび上がります。
「個人の権利利益を保護すること」が目的であるとすると、保護の対象があまりにも広くなってしまい、境目がなくなってしまうのではないか?
私は公開されている裁判例、判例等をいくつか読みましたが、裁判所の見解は必ずしも一致していないように感じられます。
例えば、以前の記事で紹介しました、鳥取地方裁判所令和3年2月12日判決では、亡くなった人の(個人)情報が、遺族の不安を解消、緩和する機能・効果を持つことに着目していました。
この事案では、開示請求者である原告は、亡くなった人から承継された損害賠償請求権等を行使するために、開示を請求している情報が必要であるという主張をしており、この点から開示請求を認める余地があったのではないか、と考えられます。
行政法に詳しい先生からは、個人情報の保護に関する法令は、議論が習熟していない段階で制度の導入が先行しており、現場に理論が追い付いていっていないのではないか、と聞いたことがあります。
この問題をさらにややこしくしているのが、個人情報保護は、法だけではなく条例による定めが発達していることです。
各地方自治体の、個人情報保護条例の定め方は、基本は共通していますが千差万別であって、各条例に沿って判断せざるを得ません。
例えば、条例で「死者の情報の保護」を定めることは理論上可能とされていまして、このような定めを設けている地方自治体はあるようです(本記事の執筆時点)。
今後の先例の積み重ねによって、保護される個人の権利利益の外郭、限界は見えてくると思われますので、これからも注目していきたいと考えています。
法令の目的からすれば、何らかの法的な権利利益のために情報開示を請求している場合、それが亡くなった人の情報であっても、認められる可能性はある。
まだまだ発展途上の問題点であるため、今後の傾向を見守る必要がある。
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