今回ご紹介するのは、水道企業の補助職員が専決によって支出をした場合に、その職員が地方自治法上の「当該職員」に該当するかが争われた、最高裁判所平成3年12月20日判決です。
最初に謝っておきますと、本記事は、役に立つ方は少ないと思われます。
「じゃあ、どうして記事を作成したんだ?」と疑問に思われるでしょう。
私が受験生時代には全く理解できなかった論点でしたが、弁護士になってから、弁護士会内の勉強会に参加した際に著名な先生の解説をお聞きする機会がありまして、もう一度調べてみたい、という意欲が湧いてきたのです。
このように、いわば個人的な趣味で記事を執筆していますので、ご了承いただけますと幸いです。
事案の概要
大阪府水道企業は、同府下の水道事業等を行うために地方公営企業法に基づいて設置された地方公営企業。
その業務を執行させるため大阪府に管理者が置かれ、大阪府水道部は、管理者の権限に属する事務を処理させるために設けられた組織。
大阪府水道部事務決裁規程
決裁:管理者の権限に属する事務について、最終的にその意思を決定すること
専決:常時、管理者に代わって決裁すること
予算の執行に関することについては、その金額の多寡に応じ、水道部長もしくは水道部次長または総務課長が「専決」により処理するものとされていた。
関係者は、大阪府水道企業の管理者Y1、水道部長Y2、水道部次長Y3、水道部総務課長Y4である。
記録上、昭和57年5月31日に水道事業費から会議接待費として各飲食店に対して支出されている(以丁「本件各支出」という)。
本件各支出は、水道部の部長、次長又は総務課長の専決によって支出された。
大阪府の住民であるXらは、本件各支出は、「会議接待が実在しないのにこれがあったかのように仮装してなされた違法な支出である」として、旧地方自治法242条の2第1項4号に基づき、大阪府に代位して、Yらに対し損害賠償を求めた。
裁判所の判断
Y2~4(部長、次長及び総務課長)は、旧地方自治法242条の2第1項4号の「当該職員」に該当するか。
管理者が右訓令等により法令上その権限に属する財務会計上の行為を特定の補助職員に専決させることとしている場合においては、当該財務会計上の行為を行う法令上の権限が右補助職員に委譲されるものではないが、内部的には、右権限は専ら右補助職員にゆだねられ、右補助職員が常時自らの判断において右行為を行うものとされるのである
⇒『当該職員』には、当該普通地方公共団体の内部において、訓令等の事務処理上の明確な定めにより、当該財務会計上の行為につき法令上権限を有する者からあらかじめ専決することを任され、右権限行使についての意思決定を行うとされている者も含まれる
⇒補助職員が、専決を任された財務会計上の行為につき違法な専決処理をし、これにより当該普通地方公共団体に損害を与えたときには、右損害は、自らの判断において右行為を行った右補助職員がこれを賠償すべきもの
⇒管理者は前記のような右補助職員に対する指揮監督上の帰責事由が認められない限り、右補助職員が専決により行った財務会計上の違法行為につき、損害賠償責任を負うべきいわれはない
解説
受験生時代に、初めて本判決を読んだ時は、すっと頭に入らず、モヤモヤした感覚があったのを覚えています。
行政において権限を有するのは行政庁でして、本事案のような会計支出についても同様です。
地方公営企業たる大阪府水道企業に権限があり、その管理者に責任がある、というのが理論的な帰結になるように思われます。
ここで、規程による内部処理とはいえ、「専決」においては、課長等の補助職員の判断で会計支出が可能となっているのですから、その補助職員にも責任があるのではないか、という感覚的な疑問が生じます。
ですが、この専決での処理においては、行政庁からの権限の委任はなく、代理権の付与もされていませんので、対外的には行政庁(の管理者)の名義で行われていると言わざるを得ません。
このような、内部的な処理の実態と、行政法上の権限(責任)の所在とのギャップについて、一定の回答をしたのが本判決です。
専決によって、自らの判断で会計支出が可能である以上、その職員が責任を負うことは止むを得ませんし、管理者には監督責任のような責任を負わせるというのは、極めて妥当な結論と言えるでしょう。
結論の妥当性は多くの賛同を得ると思われますが、個人的には、「専決」というのは、行政法上、どういう位置づけになるのか?という理論的な疑問は拭えないままです。
「専決」によって会計処理をする職員は、権限を委譲されているものではないが、住民訴訟において責任を負う可能性がある。
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