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無断欠勤が続いている従業員を懲戒解雇できるか

従業員が不可解な言動を見せるようになり、次第に出勤日数が減り、有給休暇を消化しきっても出勤せず、欠勤を続ける…
このような状態になると、その従業員の仕事を他の従業員が肩代わりすることになって現場は負荷がかかりますし、企業としては欠勤する従業員にどう対処してよいのか分からず困り果ててしまいます。

本人には、不可解な言動をしているという自覚がないことが少なくないため、企業が受診を勧めても「病気扱いするのか」と抵抗されてしまい、医学的な精神障害に該当するのか確信が持てないことがあり得ます。

従業員が医療機関を受診して、何らかの精神障害があるという診断書を提出してくる場合もありますが、その場合でも、休職ができずにいつまでも欠勤を続けるということがあり得ます。

今回ご紹介するのは、精神的な不調で欠勤を続けた従業員に対して、諭旨解雇処分としたことの有効性が争われた、最高裁判所・平成24年4月27日判決です。

目次

事案の概要

Y社は電子計算機、電子計算機周辺機器等及びそれらのソフトウェアの研究開発、製造等を目的とする株式会社。

就業規則には以下の規定がある。
第51条 会社は,社員が次の各号の1に該当するときは,懲戒処分にする。
 (中略)
3) 欠勤多くして不真面目なとき,および正当な理由なしに無断欠勤引き続き14日以上に及ぶとき。
第63条 傷病その他やむを得ない理由で欠勤するときは,あらかじめ就業報告書により,その理由および見込日数を届け出なければならない。

平成12年10月1日、Xは、システムエンジニアとしてY社に入社した。

平成20年4月上旬以降、XはY社に対し、以下のようなXに対する職場での嫌がらせ、内部の情報の漏洩等(以下「本件被害事実」という。)を申告し,その調査を依頼した。
本件被害事実の要旨は、過去約3年間の長きにわたり、の日常生活が仔細に監視され、Xの情報(業務上の情報及びプライバシーに係る情報の双方)が,Y社の従業員等により共有されており,Y社の従業員(会社において,Xと仕事上のつきあいが一切ない者を含む)が、Xに対しそのような情報を仄めかすこと等で,Xに嫌がらせをしているというものである。

・平成18年5月ころ,Xとメイド喫茶のウェイトレスの間でいざこざが発生した。これがきっかけとなり、この頃から、加害者集団が雇った専門業者、協力者らによるXに対する盗撮・盗聴・つけまわしが始まった。
・このようなストーキング行為の結果蓄積された情報は、インターネットの掲示板、メーリングリスト、SNS等を通じてXの見えないところで加害者集団により共有された。
・加害者集団は、Xの上司や同僚を脅迫したり、欺罔することにより、約10名程のY社社員を使って,Xに対して仄めかし等による嫌がらせをさせ、Xを威迫した。
例1:Xが自宅のパソコンで(インターネットの)サイトを閲覧している様子を加害者集団が盗み見、そのことについて、Y社従業員が仄めかす。
例2:Xの通勤の様子を加害者集団が監視し、Xが忘れ物をしてバスに乗り遅れ、別の路線で通勤した時には、Y社従業員が「三段落ちだわ。」等と仄めかす。

平成20年4月8日以降、Xは有給休暇を取得して出社しなくなった。
同月22日、Xは、有給休暇も残り少なくなったことから、休職の特例を認めてもらえるようにY社へ依頼した。
同月30日、Y社は、Xに対し,「就業規則や前例、慣例を鑑みても、休職を許可することはできない。」と回答した。
同年5月、Xは、Y社に対し、本件被害事実について調査依頼をしたところ、Y社は、Xが提供した資料をもってしても、本件被害事実はないとの結論に至ったとXに伝えた。
その後、Y社はXに対して、出勤するよう促すメールを送ったが、Xは応じず、平成20年6月3日には全て消化され、Xは,翌4日以降同年7月30日まで欠勤を継続した。

同年8月28日、Y社はXに対して、同年9月30日をもって諭旨退職処分とする旨の通告をした。
Xが退職届を提出しなかったため、Y社はXを解雇した。

裁判所の判断

Xの無断欠勤が、懲戒事由である「正当な理由なしに無断欠勤」したことに当たるか

・本件のXのような精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想される
・使用者であるY社としては、精神科医による健康診断を実施するなどして(記録によれば、Y社の就業規則には、必要と認めるときに従業員に対し臨時に健康診断を行うことができる旨の定めがあることがうかがわれる。)
・その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべき

⇒このような対応を採ることなく、Xの出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い。

・Xの欠勤は就業規則所定の懲戒事由である「正当な理由なしに無断欠勤」に当たらない
⇒就業規則所定の懲戒事由を欠き、無効である。

解説

本件は、懲戒解雇(諭旨退職)の有効性が争われた事案でして、懲戒事由は各企業の就業規則に定められています。
Y社の就業規則には、懲戒事由として「正当な理由なしに無断欠勤」が定められており、Xの欠勤がこれに該当するのかが争われました。

「正当な理由のない」の意義は解釈問題になりますが、この文言からすれば、出勤できない理由がないのに出勤しない、ということになるでしょう。
健康上、労務提供には何らの支障もないのに、働きたくないから、行きたいイベントがあるから、等の自分勝手な理由で働かない場面を想定していると考えられます。
他方で、例えばインフルエンザにかかって満足に動けない、周囲に移してしまうリスクがある場合は、出勤しないことに「正当な理由なし」の状態とはいえないでしょう。

本事案では、Xは何らかの病気であるとの診断はされていませんが、言動から何らかの精神上の疾病を疑うことは、医学の専門的な知識を持たない者でも合理的な判断でしょう。
精神上の疾病にかかっているとすれば、それが欠勤の理由となりうるのであって、「正当な理由なしに無断欠勤」には直ちに該当しないと解されます。
したがって、Y社が「出勤しない理由が存在しない」と判断したことは、客観的には、そうとは言い切れない部分があったと言えます。

Y社としては最善を尽くしたのだと推測しますが、後から振り返りますと、懲戒解雇(諭旨退職)に踏み切ったのは時期早々という面があります。
健康診断を勧めるべきだった、結果によっては休職を検討すべきだった、という本事案での裁判所の判断は妥当だと思われます。

ですが、Y社と似たような状況に置かれた企業がどう対処すればよいのか、という点は大きな課題です。

まず、精神科医による健康診断を実施するよう動くことになりますが、就業規則が定められていなかったり、就業規則にその旨の定めがなかったり、明文の根拠がないことがあり得ます。
私見ですが、企業は従業員に対してその健康状態に配慮する義務があるとされていますので、これを根拠に医療機関への受診を勧めることは可能と考えられます。

次に、健康診断の実施を従業員に勧めたけれども、当該従業員がこれに応じないことがあり得ます。
一度拒否をされても、受診に向けた努力はすることになるでしょうが、拒否され続けた場合にどこまでの努力と配慮が企業に求められているのでしょうか。
従業員の拒否の理由や程度を見ながら判断していくことになります。

続いて、従業員が健康診断に応じて受診し、精神上の不調が判明したために企業が休職を勧めたものの、従業員がこれに応じないこともあり得ます。
就業規則に休職の定めがない、又は就業規則上の休職事由に該当しないのであれば、企業から休職を命じられず、事態を進展させられない状況になってしまいます(それでも企業は休職を命じられるという見解はありますが。)。

従業員がいつまでも健康診断に応じない、又は、企業から休職を命じられず、従業員がいつまでも休職を申し出ない場合、Y社の就業規則のような「正当な理由のない」無断欠勤に該当するとして、懲戒事由になるのでしょうか。
別の観点として、労務提供が困難な状況が改善しないとして、普通解雇をすることができないのでしょうか。

企業の人員は限られていますから、欠勤を続ける従業員がいた場合、その従業員のフォローを他の従業員がしなくてはなりません。
その状態を維持し続けると、現場から不満の声が上がるでしょうし、特定の従業員に負荷がかかってしまえば、その従業員に対する安全配慮義務の問題が生じてきます。

企業がどこまでをすべきか、いつまでその状態を続けるべきか、は個別の判断が必要になるものの、企業としては、すぐに懲戒解雇に踏み切るのではなく、順を追って慎重に対処していくことが求められるでしょう。

無断欠勤が続いたからといって、すぐに懲戒処分をするのではなく、欠勤の原因を探るべし。
精神的な不調が疑われるのであれば、健康診断を勧める、休職を検討する、といった対処から始めるのがよい。

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