死因贈与とは何か
「死因贈与」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
これは贈与契約の一種でして、文字通り「亡くなったことを原因として効力を生じる贈与」のことです。
この説明を聞くと、「それって遺言のことじゃないの?」「遺言と何が違うの?」と感じる方も多いかと思われます。
実際、「自分が亡くなった後、自分の財産を特定の誰かに渡したい」と考える人は、その大半が遺言を作成しますので、死因贈与を見聞きする機会は少ないといえるでしょう。
遺言による遺贈と死因贈与との大きな違いは、遺贈は亡くなった方が自分の意思だけで行えることに対して、死因贈与は受け取る側の承諾が(しかも、亡くなった方の生前に)必要になります。
あくまでも贈与、つまり契約だからです。
贈与「契約」があった、ということを、当事者の一方が亡くなった後に立証することは困難が伴います。
贈与契約書が作成されていれば可能性は非常に高いのですが、遺言を作成する方が容易(単独で完結できる)ですので、通常は遺言が作成されています。
そのため、贈与契約書が作成されているケースは極めて稀でしょう。書面以外となると、関係者の証言が考えられますが、人の記憶には曖昧さがありますので、それだけで立証することは難しいといえます。
その他、自筆の遺言らしき書置きが残されているが押印等の有効要件を満たさないとき等に、この書置きを死因贈与の立証に使うことがあります。
解除権に関する話
死因贈与については、前述のとおり、多くのケースで契約書が作成されていないと思われます。
このような書面によらない贈与契約は、慎重に考えることなくなされてしまうことがあるため、民法550条には、当事者のどちら側からでも解除が可能と定められています。
このため、死因贈与契約を立証しうるとしても、解除ができるのではないかが問題になります。
贈与契約の解除権は、相続によって相続人に承継されるので、亡くなった後に相続人から解除することができると考えられています。
相続人が一人だけである場合はよいのですが、実際のケースでは複数の相続人がいることがあり、贈与契約の解除権がどのように相続人に承継されているのかを考えなくてはなりません。
相続によって承継した解除権の性質に関して、本記事作成時点では、定説があると言えない状況です。
例えば、亡くなったAさんの子どもはBCさんの2名で、Aさんが生前お世話になったDさんへ死因贈与した場合を考えてみましょう。
この場合、Bさん又はCさんが、単独で法定相続分割合(2分の1)の部分だけ解除できるのでしょうか、それとも、BCさんの両名で、全体の解除ができるのでしょうか。
一つの考え方は、贈与の解除権は分割できる権利なので、各相続人が自己の法定相続分割合に応じて解除できる、というものです(東京高等裁判所昭和60年6月26日判決はこの考え方のようです。)。
もう一つの考え方は、贈与の解除権は相続人全員が準共有しており、それを行使するかどうかは管理(又は変更)に該当するため、その過半数(又は全員)の同意があれば解除できるというものです。
東京地方裁判所平成28年4月19日判決は、解除権の行使を管理と捉え、法定相続分の過半数を有する相続人の同意があれば可能と判断しているようです。
預貯金に関する話
預貯金口座というのは、一般人の感覚的には財布・金庫に近いと思われますが、法的には金融機関との契約によるものです。
口座内の預貯金を引き出す権利、預貯金債権は債権の一種です。
口座内の預貯金を死因贈与するということは、預貯金債権を他者に譲り渡すという意味になりまして、債権譲渡となります。
債権譲渡ですので、民法467条によって、譲渡人からの通知か、債務者の承諾がなければ、債務者である金融機関に対して、債権が譲渡されたことを対応できません。
通常、約款には預貯金債権の譲渡禁止が定められていますので、金融機関が譲渡を認めることは考え難く、債務者の承諾は期待できないでしょう。
そうすると、譲渡人からの通知を検討することになりますが、死因贈与では譲渡した本人は亡くなっていて、生前に譲渡通知をすることはないでしょうから、その権利義務を承継した相続人からの通知ということになりそうです。
相続人が快く譲渡通知をしてくれるかは関係性によりますのでケースバイケースですが、相続人が複数いた場合には、単独でできるのか、過半数ならできるのか、全員で行うのか、という問題があります。
また、金融機関からすると預貯金の譲渡を自由に認めると事務処理が追い付かなくなる等の事情から、基本的には預貯金債権について譲渡禁止特約が付されています。
判例でも、銀行取引を経験した者であれば、譲渡禁止特約の存在は周知の事柄であるとされています(最高裁判所判所昭和48年7月19日判決)。
先の民法改正によって、譲渡禁止特約が付されている債権でも譲渡は有効となりましたが、預貯金債権については例外が設けられています(民法466条の5)。
この譲渡禁止特約が、死因贈与においても効力を有すると認めた裁判例(東京地方裁判所令和3年8月17日判決)が存在するところでして、この点に注意が必要です。
なお、相続人と受贈者との間で、預貯金債権の帰属について(死因贈与の有効性について、という意味と解されます)決着がついていれば、譲渡禁止特約があるという金融機関の主張は信義則違反という判断をした裁判例がありますので、この問題はとても複雑です。
まとめ
死因贈与は、有効と認められるための立証が難しいだけではなく、解除(撤回)されるのではないか、預貯金の場合は譲渡禁止特約をどうするのか、といった複雑な問題があります。
生前の対策としては、遺言によることが安全だと思われます。
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