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遺産分割での預貯金残高はいつの時点なのか

現代日本において、預貯金口座は金庫の役割になっていることが多く、口座を持っていない人はほとんどいないと思われます。
ですので、亡くなった人の遺産について手続をする場合、預貯金口座が関係してくることが非常に多いのです。

この預貯金口座というのが厄介なものでして、日々残高が変動しうるものです。
口座の名義人が亡くなっても、口座がある金融機関は報告を受けなければ亡くなったことを知ることはなく、本来は利用することができない口座を利用することができてしまいます。
亡くなった後も、自動引落しがされたり、年金が振り込まれたりすることは珍しくありません。
暗証番号を知っていればATMで預貯金の入出金ができてしまいますので、引き出されることもあります(亡くなった後の引出しを推奨するものではありません。)。

このように、亡くなった以降も預貯金の入出金が続いてしまい、亡くなった時点の残高と、現在の残高が違ってしまう、ということはよく起こります。

こういったことから、弁護士として法律相談を受けていますと、

「遺産分割の話をする時、預貯金口座の残高はいつの時点なのか」

というご相談をよく受けます。

今回は、この点を解説していきます。

目次

いつの時点の残高なのか

結論から言いますと、他の相続人と、どの遺産をどのように分けるのかの協議をする際の預貯金口座の残高は、「現在(遺産分割の話をする時点)の残高」となります。

「え、亡くなった時点じゃないの?」

驚かれる方が多い印象ですが、亡くなった時点ではありません。
亡くなった時点と考えてらっしゃる方がこう考える根拠は、「相続は亡くなった時点で効力が生じる」こととお見受けします。
民法でも、896条には相続開始時に一切の権利義務を承継すると規定されていますので、素直に読むと口座残高は亡くなった時点を基準にするように解されます。
なお、私は税理士ではありませんが、相続税の計算においても、亡くなった時点の残高を相続財産とすると聞いています。

遺産分割においては、まず、分割の対象となる財産かどうか、という問題があります。
例えば、貸したお金を返してもらう権利等の可分債権は、相続発生と同時に各相続人に承継されますので、遺産分割協議は不要とされています(全ての相続人が同意すれば分割対象となりますが、ややこしくなるので割愛します。)。

そして、不動産や預貯金といった、分割の対象となる財産については、「分割時点で現存していること」が求められます。
原則論では、現在残っていない財産は分割の対象になりませんので、預貯金残高も過去の残高ではなく現在の残高となるのです。

相続時の残高とした場合の不都合

「現存しているものだけと言われても、感覚的に受け入れられない…」

そういった感想をよく聞きますので、これからは、仮に相続時の残高にした場合に起こり得る不都合をご説明いたします。
様々な不都合が生じうるのですが、分かりやすくするために、やや極端なフィクションをご用意しました。

Aさんがお亡くなりになりました。
Aさんの遺産は預貯金1000万円、配偶者は先に亡くなっていて、子どもはBさんとCさんの2人です(法定相続分割合は2分の1ずつ)。
Aさんは突然亡くなったことから、亡くなった直後に施設費用などの引き落としがあり、現在の残高は900万円になっていました。

BさんとCさんは、Aさんが亡くなってから記帳していない通帳を見て、預貯金の残高は1000万円であると考えていました。
現在の残高を調べなくてはならないという知識がなく、確認をしませんでした。

BさんはAさんの近くに住んでいて、頻繁に施設に通ったり、世話をしたりしていたという事情があり、Cさんはそのことに負い目を感じていました。
話し合った結果、預貯金1000万円のうち530万円をBさんが、470万円をCさんが取得することになりました。

Cさんが先に金融機関で手続をして、470万円を払い戻しました。
続いてBさんが金融機関で手続をしたところ、窓口から「残高が430万円しかないので、530万円の払戻しはできません。」と説明され、430万円の払戻しとなりました。
(現実には、Cさんの手続の時点で金融機関が止めると思われますが、その点はさて置くことにします。)

納得がいかないBさんは、Cさんと再度話し合おうとして連絡を試みますが、Cさんからの応答はなく、音信不通になってしまいました。

結び

先に紹介しました事案はフィクションですが、「一度、遺産分割協議が成立したものの、その内容に不備があって再協議しようとしたところ、他の相続人と連絡が取れなくなる」というパターンは、弁護士としては見聞きすることがあります。
遺産分割協議を成立させる前に、正しい知識を得ておくことはとても大切です。

民法909条の2による一部引出がありうること、遺産の範囲は全ての相続人が合意すれば柔軟に決められること、相続開始後の預貯金の引き出しについては民法906条の2によって遺産に含まれる余地があること等から、実際の遺産分割はより複雑になります。

本記事で伝えたいのは、基本・原則が何であるかです。
これを押さえておかないと、思わぬ落とし穴にはまることがありますので、しっかりと覚えておきましょう。


例えば、税理士の先生が遺産分割協議書を作成される場合、相続税の計算と同様に相続開始時の残高を前提にされることが多いので、注意が必要です。

遺産分割での預貯金残高は「現在時点」が原則。
相続人全員の同意によって柔軟に決めたりはできるが、理論的には例外である。

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